AI導入の失敗事例:助成金で約300万円かけたAIを一度も使わなかった話
元役員(年商1億→20億)中小企業7社の顧問AI導入のコンサル10件
中小企業のAI導入が失敗する原因は、私の場合、AIの出来ではありませんでした。「これで、誰の、どの作業が消えるか」を決めないまま発注したことです。
私は年商1億円の会社を7年で年商20億円まで育てた元役員で、現在は中小企業7社の顧問です。その私が、助成金で約300万円かけて入れたAIを、実務で一度も使いませんでした。この記事では、何があったか、どこで間違えたか、発注の前に確かめる質問をまとめます。
何があったのか:約300万円のAIを、実務で一度も使わなかった
助成金を使って会社にAIを入れ、納品されたものを一度も使いませんでした。社長の作業は、1つも減りませんでした。
納品物が悪かったわけではない
あとから振り返っても、カルテの出来は悪くありませんでした。作ってくれた側は、頼まれたものをきちんと作っています。
問題は、頼んだ側の私にありました。何を消したいのかを決めないまま、「AIで何か良いものを」と頼んでいたんです。
どこで間違えたのか:4つの場所
間違えたのは、発注より前の段階です。振り返ると、4つの場所で順番を誤っていました。
1. 消したい作業を決めずに頼んだ
「この作業を来月からなくしたい」という1つが決まっていれば、カルテは作らなかったはずです。少なくとも、最初には作っていません。
目的が「AIで何か」のままだと、作る側は作れるものを作るしかありません。
2. 作れるものを先に作り、使う場面をあとから探した
先に「AIで作れるもの」を決めて、そのあとで使う場面を探そうとしていました。使う場面が見つからなければ、どれだけ立派でも、置いてあるだけのものになります。
私はこの失敗から、「あれば便利」という言葉を警戒するようになりました。あれば便利なものは、なくても困りません。だから開かれなくなります。
3. 助成金が使えるから入れた
「助成金が使えるなら、この機会に」という順番で決めていました。制度が先に来て、それに合う納品物を探した形です。
しかも、使っていないものを「補助金で継続しましょう」という話に乗りました。使われていないと分かった時点で止めていれば、そのあとの出費はありませんでした。制度が使えるかどうかより先に、「いま使っているか」を見るべきでした。
消したい作業が先にあって、そこに制度が使えるなら良い話だと思います。補助金を検討している場合の考え方は、デジタル化・AI導入補助金2026|申請前に社長が決める3つに書きました。
4. 入れる前の時間を測っていなかった
入れる前に何分かかっていたかを測っていないと、入れた後も比べられません。比べられないと、続ける理由も、やめる理由も言えません。
失敗は1回ではなかった:3回に共通していたこと
実は、同じ形の失敗を3回しています。1つ目は社内向けのクイズのアプリ、2つ目は月額で払う業務システム、3つ目がこの従業員カルテです。業務システムは、開かなくなってからも1年間払い続けました。
3回に共通していたのは、次の4つでした。
| 共通していたこと | 何が起きたか |
|---|---|
| 開く場面が決まっていなかった | 「必要なときに見る」で渡し、忙しい月に手作業へ戻った |
| 触っている人が1人だけだった | その人が手を離した時点で、誰もやり方が分からなくなった |
| 毎回、同じ所を直していた | 直した内容を書き残さず、そのうち手でやるほうが早くなった |
| 効果を測っていなかった | 払い続ける理由も、止める理由も言えなかった |
どれも、道具の性能の話ではありません。入れる側の決め方の話でした。
発注前に確かめる8つの質問
AIの提案や見積もりを受け取ったら、発注の前に次の8つを書き込んでみてください。1・3・4は、私が顧問先でAIを入れるとき、道具の話より先に聞いている3つです。残りは、自分の失敗で抜けていたことから足しました。
1. これで、誰の、どの作業が消えるか(1行で書けるか) 2. その作業に、今どれだけかかっているか(1回何分、週に何回) 3. 消えたら、月に何時間、いくら戻るか 4. 戻った時間を、何に使うか 5. 毎日の仕事の流れの、どの場面で開くか 6. 触る人は誰か。2人目は誰か(手順を紙1枚で渡せるか) 7. お金や人が動く作業なら、最後の確認を人に残す形になっているか 8. 補助金や助成金がなくても、この金額を払うか
いちばん大事なのは1つ目です。試しに、あのカルテで書いてみます。「これで、誰の、どの作業が消えるか」。誰の欄も、どの作業の欄も、埋まりませんでした。
顧問先のホームページで書くと、こうなります。「社長の、HPの文言を直すたびに外注先へ連絡して数日待つ作業が消える」。1行で書けて、実際に消えました。この顧問先のHP保守の外注費が月1万円から0円になったのは、この作業を消したからです。
質問に答えられなかったときの行き先
8つ全部が、最初から埋まるとは限りません。埋まらなかった質問ごとに、次にやることを決めておくと止まりません。
| 埋まらなかった質問 | 次にやること |
|---|---|
| 1(誰の、どの作業) | 発注を止める。1週間、終わった作業を書き出してから選び直す |
| 2・3(今の時間、戻る時間) | 1週間だけ測る。ざっくりの分数でよい |
| 4(戻った時間の使い道) | 曜日と時間で決める。決まらないうちは急がない |
| 5・6(開く場面、触る人) | すでにある仕事の流れにくっつけられる作業に選び直す |
| 7(最後の確認) | AIに任せるのは「作るところまで」にする |
| 8(補助がなくても払うか) | 払わないなら、その発注は見送る |
すでに入れて、使われていないときは
止める前に、2つだけ見ます。先月その作業に何回使ったかと、その作業に今かかっている時間です。
回数が落ちている月は、もう手作業に戻り始めています。時間が入れる前と変わらないなら、渡す作業を分け直すか、外すかを決めます。合わなかったものを外すのは、失敗ではないと私は思っています。避けたいのは、払い続けているのに誰も開いていない状態のほうです。
解約の条件や違約金は、契約書で確かめてください。判断に迷う場合は、契約に詳しい専門家に相談してください。
失敗のあとで変えた順番
いまは、消したい作業を1つ決める、今の時間を測る、そこにだけAIを当てる、もう一度測る、の順番を崩さないようにしています。この順番に変えてから、入れたものが使われずに眠ることはなくなりました。
始める順番と最初の3か月の進め方は、中小企業のAI導入は何から始めるかにまとめました。道具を先に選んでしまう会社の共通点は、AIを入れても仕事が減らない会社の共通点に書いています。
よくある質問
Q. 中小企業のAI導入が失敗するいちばんの原因は?
私の場合は、消す作業を決めずに道具から入ったことでした。AIの性能や納品物の出来ではなく、頼む側の順番の問題です。
Q. 助成金や補助金でAIを入れるのは、やめたほうがいいですか?
やめる必要はありません。先に消したい作業が決まっていて、そこに制度が使えるなら良い話です。私が失敗したのは、制度が先に来たときでした。
Q. 納品されたAIが使われないのは、業者の責任ですか?
私の場合は、頼んだ側の問題でした。作る側は頼まれたものを作ります。何を消したいかを決めて伝えるのは、頼む側の仕事だと思っています。
Q. 使っていないAIは、すぐ解約したほうがいいですか?
先月の利用回数と、その作業の時間を見てから決めます。回数が落ちていて時間も減っていないなら、外す候補です。解約の条件は契約書で確かめてください。
Q. 発注前に、最低限これだけは確かめるという質問は?
「これで、誰の、どの作業が消えるか」の1行です。ここが埋まらないものは、いったん止めていいと私は考えています。
まとめ
- 約300万円のAIを使わなかった原因は、納品物ではなく、消す作業を決めずに頼んだ順番だった
- 開く場面、触る人、測った数字がないまま入れたものは、忙しい月に開かれなくなる
- 発注前に8つの質問を書き込み、1つ目の「誰の、どの作業が消えるか」が埋まらないものは止める
次の一歩として、いま手元にある提案書か見積もりに、1つ目の質問を書き込んでみてください。
出典・参考
- AI導入で失敗した私が、使い方を教えない理由(AI参謀のnote。同じ体験を長く書いたもの)
- 3回、同じ失敗をした。入れたAIが3か月目に開かれなくなる理由(AI参謀のnote)
この話は、noteでも書いています:noteで読む
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