患者さんに叩かれた、つかまれた、暴言を言われた。それを「患者さんだから仕方ない」で終わらせる必要はありません。患者さんを責めるのではなく、同じことが起きにくい受け持ち方に変えてもらうことが目的です。2026年10月1日からは、こうした言動から働く人を守る対策が、法律で職場の義務になりました。
数字で見ると、あなただけではない

日本看護協会が2025年に会員の看護職に聞いた調査(有効回答4,430人)では、この1年に暴力やハラスメントを受けた人が49.3%いました。受けた人に誰からかをたずねると、患者さん・利用者さんが69.3%でいちばん多く、2017年の調査(59.5%)より増えています。叩く・つかむなどの身体的な攻撃に限ると、93.8%が患者さん・利用者さんからでした。
看護の仕事では、めずらしいことではありません。だからこそ、ひとりで抱えずに、職場の仕組みで防ぐことが大事です。
「仕方ない」で終わらせなくていい理由
2026年10月1日から、改正された労働施策総合推進法で、カスタマーハラスメント(顧客などからの、社会通念上許容される範囲をこえた言動)を防ぐための対策が、職場(事業主)の義務になりました。
国が出した指針では、ここでいう「顧客等」の例に、病院などの施設の利用者と、その家族が挙げられています。そして、職場があらかじめ決めておく対応の例として、次のようなことが書かれています。
- できるだけ、働く人をひとりで対応させない
- やりとりを録音・録画する
- 暴行や傷害、脅迫などにあたる行為は、警察へ通報する
- 起きたあとは、担当を替えるか、複数の人で対応する
- 起きたことと対応を記録して、再発の防止に使う
また、こうしたことを相談したことを理由に、不利な扱いをすることは法律で禁止されています。
病気や薬の影響で起きる行動もあります。どこまでが指針でいう「度をこえた言動」に当たるかは、場面によって判断が分かれます。それでも、症状による行動だからといって、あなたがひとりで受け止め続ける必要はありません。受け持ちの人数や入り方を変えるのは、職場が考えることです。
起きたときの手順

- その場を離れて、応援を呼ぶ:自分の安全が先です。けがをしたら、我慢せずに受診してください
- 記録する:下のメモを使って、その日のうちに書いておきます
- 報告して、相談する:記録を持って師長に。「ひとりで受け持たない方法を一緒に考えてほしい」と、してほしいことを具体的に伝えます
日時:○月○日(○)○時ごろ 場所:○号室/ナースステーション など されたこと:(例:体位交換のときに右腕を叩かれた。そのままの言葉も書く) 自分がしていたこと:(例:ひとりで体位交換をしていた) その場にいた人: けがや体の様子:(例:右腕にあざ。翌日受診) そのあとの対応:(例:○時に師長に報告)
いつもありがとうございます。○月○日の夜、○号室の患者さんの体位交換のときに、腕を叩かれました(記録をお持ちしました)。 患者さんを責めたいのではありません。同じことが起きにくいように、夜の体位交換を2人で入るなど、ひとりで受け持たない方法を一緒に考えていただけないでしょうか。
仕事中のけがは、原則として労災の対象になる
仕事中に職場でけがをした場合は、特別な事情がない限り、業務上のけが(業務災害)として労災保険の対象になるとされています。患者さんからの暴力でけがをしたときも、受診の前後に職場へ伝え、労災の手続きについて確認してください。
心のほうがつらくなったときも、ひとりで抱えないでください。精神障害の労災の認定基準には、2023年の改正で「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という出来事が加わっています。眠れない、食べられない日が続くなら、受診も考えてください。
どこに相談するか
- 職場のハラスメント相談窓口:2026年10月からは、患者さんやご家族などからの度をこえた言動についても、相談の体制を整えることが職場に求められています
- 総合労働相談コーナー:職場に言いにくいとき。無料で、予約もいりません
- こころの耳(厚生労働省):心がつらいとき。電話・SNS・メールの相談窓口があります
- 次の職場のこと:看護師の転職サイト(紹介会社)や、ナースセンター
話しても「仕方ない」で終わる職場なら、守ってくれる仕組みのある職場に移ることも、自分を守る方法です。
次の職場で確かめること
| 確かめること | 聞き方の例 | なぜ |
|---|---|---|
| 暴力・暴言があったときの対応 | 「患者さんから暴力や暴言があったとき、どう対応する決まりがありますか」 | 決まりがあれば、ひとりで抱えずに済む |
| ひとりで受け持たない工夫 | 「力の強い方や、興奮しやすい方の受け持ちは、どう決めていますか」 | 複数人で入る仕組みがあるかが分かる |
| 相談の窓口 | 「困ったときに相談できる窓口はありますか。使われていますか」 | 窓口が実際に使われているかが大事 |
よくある質問
Q. 報告すると、患者さんを責めることにならない?
なりません。目的は患者さんを責めることではなく、同じことが起きにくい受け持ち方にすることです。記録があれば、患者さんの状態に合わせたケアの見直しにも役立ちます。
Q. 警察に通報してもいいの?
国の指針では、暴行や傷害、脅迫などにあたる行為は、警察へ通報することが対応の例として挙げられています。ひどいけがや、命の危険を感じたときは、ためらわないでください。どう動くかは、職場の決まりも確かめておきましょう。
Q. 訪問看護で、ひとりのときにされたら?
訪問看護は、ひとりで、閉じた空間で対応することが多くなります。日本看護協会の労働安全衛生ガイドラインも、訪問看護は対処が難しくなりやすいとしています。危ないと感じたら、その場を離れてかまいません。2人で訪問する決まりがあるか、緊急時にどう連絡するかを、事業所で確かめておきましょう。
まとめ
- 患者さんからの暴力は、看護の仕事でめずらしくない。それでも「仕方ない」で終わらせなくていい
- 起きたら、離れて応援を呼び、記録して、ひとりで受け持たない方法を相談する
- 2026年10月1日から、職場には対策の義務がある。仕事中のけがは、原則として労災の対象になる
次の一歩:もし今日、つらいことがあったなら、上の記録メモに1つだけ書いてみてください。書いておくだけで、相談するときの支えになります。
人間関係のつらさ(怒鳴る先輩・無視など)は、怖い先輩・怒鳴る医師がつらいにまとめています。
出典・参考
- 2025年 看護職員実態調査 ニュースリリース(日本看護協会、2026年3月31日)(確認日:2026-10-04)
- 労働施策総合推進法(e-Gov法令検索):第33条(顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)(確認日:2026-10-04)
- 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!(厚生労働省)(確認日:2026-10-04)
- カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(確認日:2026-10-04)
- 医療現場における暴言・暴力等のハラスメント対策について(厚生労働省、平成31年2月28日)(確認日:2026-10-04)
- 看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン(日本看護協会)(確認日:2026-10-04)
- 業務災害について(厚生労働省)(確認日:2026-10-04)
- 精神障害の労災認定(厚生労働省、令和5年9月改正)(確認日:2026-10-04)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)(確認日:2026-10-04)
- 相談窓口案内|こころの耳(厚生労働省)(確認日:2026-10-04)

